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庭には、もう終わりかけの葉桜と呼ばれるようになった木花が咲いていた。
はらりはらりと舞い落ちる花弁は、無数の数となって庭を彩る。
それを縁側で見ていた、綺麗な金色の髪を持つ男はポツリと呟いた。 「これが、ソメイヨシノと呼ばれる花か?」 「いいえ。この桜は染井吉野ではなく、江戸彼岸と呼ばれる品種です。」 金色の髪を持つ男が振り向く先には、対称的な鴉の濡れ羽色をした髪を持つ、こ の庭の持ち主が湯飲みを手渡していた。 それを受け取り、金髪の男は疑問を口にした。 「その、エド、ヒガン?とソメイヨシノとは、どう違うのだ?」 「そうですね…。染井吉野は江戸彼岸を品種改良した種なんです。ですから、見 た目は似ていますが、決定的に違うのが、その成長速度と寿命なんです。」 「ほう。」 「染井吉野は、十年程度で巨木となり、六十年で寿命が来ます。ですが、原種の 江戸彼岸はその様に急に成長できない代わりに、千年も二千年も生きることがで きるのですよ。」 それまで無表情ではあるが、頷いていた金髪の男は、話終わる頃には顔をしかめ て、黒髪の主を見る。 その理由がわからない黒髪の主は、戸惑ったように笑い、首をかしげた。 外では、春に向かっているとはいえまだまだ冷たい風が吹いている。 早咲きの桜はまた、花弁を風に散らした。 「まるで、日本のようだ。」 静寂が世界を支配した。 「ソメイヨシノは生き急いでいるからこそ、すぐに死ぬのであろう?吾輩は、そ れが今の日本に見えた。」 黒髪の主は、かたりかたりと震え始める体を押さえ付けながら、口を開いた。 「…私は、染井吉野ですか?」 「ああ、昔はエドヒガン。…ソメイヨシノに品種改良したのは、アメリカか?」 「それは…、どうなのでしょうね?」 まっすぐに見つめてくる、綺麗な硝子玉のような瞳は、すべてを見透かしている ようで。 曖昧に笑う黒髪の主に怒りを覚えた金髪の男は、少し怒鳴るように声を出す。 「日本はそれでいいのか!エドヒガンに戻りたくないのか!何故、受け身になる のだ!」 何も言えない。 思った通り、困ったように笑う黒髪の主を、一時的には変えることができるが、 その本質は絶対に変えることが出来ないと知っている金髪の男は、見ていること ができなくて、ただ黒髪の主を抱き締めた。 「スイスさん…」 そっと呟かれた黒髪の主の声は、桜の花弁と共に風に運ばれて、金髪の男の元へ 届こうとしていた。 |